緊急時加算の現状と今後の課題
在宅医療ニーズの高まりに伴い、訪問看護における24時間対応体制の重要性は増し続けています。本章では、緊急訪問や電話相談の実施状況をデータを交えて解説するとともに、令和6年度の報酬改定によって新設された看護職員以外の電話対応体制について紹介します。
緊急訪問体制の重要性
厚生労働省の診療報酬改定に関する調査によると、利用者が訪問看護に求める機能で最も多いものは24時間対応です。
また、在宅医療・介護に関する研究調査においても、実際に緊急訪問を利用した家族への調査で、緊急時の速やかな対応が家族の不安軽減に大きく寄与している実態が明らかになっています。
このことからも、利用者が安心して在宅療養を継続するためには、24時間の緊急訪問体制を確保することが重要であるとわかります。
どのような状況で緊急時加算がとれるの?
実際の緊急訪問では、どのような依頼が多いのでしょうか。
日本在宅医療連合学会誌に掲載された実態調査(2022年)によると、緊急訪問の依頼内容は身体症状に関するものが7割を占めています。次いで、点滴やカテーテル関連などの医療デバイストラブル、転倒・転落、介護、内服関連と続きます。
また、日本看護研究学会の調査(2013年)における電話相談の状況をみると、脳神経疾患やがん末期の利用者において身体症状に関する相談が最多です。これは病状の不安定さや、本人・家族の抱える不安の大きさが関係していると考えられます。
医療処置の相談では、経管栄養を実施している家族からの連絡が多く、トラブル対応への備えが求められている現状がうかがえます。
緊急訪問の加算状況と対応体制の制度化
介護保険における緊急時訪問看護加算の届出事業所数は、在宅医療ニーズの高まりを受けて増加傾向にあります。現在では、8割以上の訪問看護ステーションがこの加算を届け出ており、ほぼ標準的な体制として定着しています。
一方で、緊急訪問の対象となる利用者のうち、実際に緊急訪問を利用するのは12%〜15%(利用者全体の約8%)ほどです。ただし、利用する方は1ヶ月に複数回にわたり緊急訪問を必要とする傾向があり、1人あたりの緊急訪問利用回数は3回以上となっています。
また、時間外 of 電話相談は1事業所あたり平均で月に16.7回発生しています。特に、1人の看護師がオンコールをすべて担当するような小規模ステーションでは、精神的・身体的な負担が大きな課題です。
電話相談の中には、体調の変化など緊急対応を要するものがある一方で、訪問日時の変更など、必ずしも即時対応を必要としない内容も含まれます。
こうした看護職員の負担を軽減するため、令和6年度の報酬改定において、看護職員以外の職員(事務員など)による電話の初期対応が正式に制度化されました。
厚生労働省の改定では、看護職員以外の職員が利用者や家族などからの電話連絡を受けられる仕組みについて、以下の要件のもとで認めています。
📌 看護職員以外の電話初期対応が認められる4つの要件
- 同一訪問看護事業所において、緊急訪問の必要性の判断を看護師などが速やかに行えるよう、看護師などに連絡できる体制が整備されていること
- 看護師などへ速やかに連絡するための連絡対応マニュアルを整備し、あらかじめ作成しておくこと
- 利用者や家族に対し、事前に説明を行って同意を得ること
- 地方厚生(支)局長または都道府県知事へ事前に届け出ること
適切なマニュアル整備と事前の同意・届出を行うことで、看護職員のオンコール負担を軽減する体制づくりが可能です。
それぞれのステーションでは、ICTの活用や夜間対応した翌日の勤務体制の調整など、負担軽減に向けたさまざまな取り組みが工夫されています。今後はさらに、複数の事業所が連携して緊急対応にあたる広域ネットワーク体制の構築などが政府に求められるでしょう。
3つの緊急時加算の違いとしくみ
訪問看護における緊急時の加算は、介護保険と医療保険で算定の仕組みや名称が異なります。実務において正しく使い分けができるよう、それぞれの関係性と違いを図解を用いてわかりやすく解説します。
24時間対応できる体制を評価する加算は、介護保険と医療保険で名称が異なります。
介護保険では「緊急時訪問看護加算」、医療保険では「24時間対応体制加算」といい、いずれも1ヶ月につき1回の算定です。
さらに医療保険では、急変時などに医師の指示で緊急訪問を行った場合、1日につき1回に限り「緊急訪問看護加算」を別途算定できます。
図からもわかるとおり、24時間対応の体制評価(月額加算)および緊急訪問時の評価(日額加算)のいずれにおいても、介護保険より医療保険の診療報酬の方が高く設定されています。
ただし、令和6年度報酬改定において、介護保険の「緊急時訪問看護加算」も業務負担軽減体制の整備状況に応じて「加算Ⅰ・Ⅱ」へと細分化され、報酬の引き上げが行われました。
このように、介護保険と医療保険では加算の体系が異なります。実務で混乱しないよう、それぞれの詳細を確認しましょう。
介護保険の緊急時訪問看護加算
介護保険における「緊急時訪問看護加算」は、24時間の常時対応体制を評価するものです。令和6年度の介護報酬改定による「加算Ⅰ」と「加算Ⅱ」への細分化の内容や、それぞれの算定要件、留意事項についてまとめました。
介護保険における緊急時訪問看護加算は、利用者または家族などから電話などにより看護に関する意見を求められた場合に常時対応できる体制を評価する加算です。
令和6年度の介護報酬改定により、看護職員の業務負担軽減への取り組み状況に応じて、「加算Ⅰ」と「加算Ⅱ」の2区分に細分化されました。
それぞれの算定単位数は以下のとおりです。
| 区分 | 指定訪問看護ステーション | 病院または診療所 | 算定要件の違い |
|---|---|---|---|
| 緊急時訪問看護加算(Ⅰ) | 600単位/月 | 325単位/月 | 夜間対応の負担軽減(勤務間インターバルの確保など)に資する体制を整備していること |
| 緊急時訪問看護加算(Ⅱ) | 574単位/月 | 315単位/月 | 従来の24時間対応体制(負担軽減の届出なし) |
※要支援者を対象とする「緊急時介護予防訪問看護加算」についても同様に、ステーションでは加算Ⅰが600単位/月、加算Ⅱが574単位/月(病院・診療所では加算Ⅰが325単位/月、加算Ⅱが315単位/月)となります。
算定にあたっての主な要件および留意事項は以下の表のとおりです。
| 算定要件の項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 事前説明と同意 | 計画的に訪問することとなっていない緊急時訪問を行う場合に、当該加算を算定することを利用者または家族等に説明し、同意を得ること |
| 届出 | 事前に事業所の所在する都道府県(または市町村)への届け出が必要であること |
| 留意事項の項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 算定の制限 | 1人の利用者に対し、1カ所の訪問看護ステーションに限り算定できる |
| 月途中の扱い | 月の途中からでも算定が可能だが、月の途中までしか体制を提供できなかった場合は算定できない |
加算Ⅰを算定するためには、従来の常時対応体制に加えて、看護職員の勤務環境への配慮(業務負担軽減体制)を整えることが重要です。
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介護保険の緊急時加算Q&A
介護保険の緊急時訪問看護加算に関して、現場のスタッフや管理者から多く寄せられる代表的な疑問をQ&A形式で整理しました。リハビリのみの利用やケアプラン変更の要否など、実務で迷いやすいポイントを網羅しています。
Q. 月の2回目以降の緊急時訪問では加算は算定できるの?
A. 月の1回目の緊急訪問の際には、夜間・早朝・深夜であっても時間外の訪問看護加算は算定できません。ただし、1ヶ月以内の2回目以降の緊急訪問については、時間帯に応じて夜間・早朝・深夜の訪問看護加算を算定できます。
Q. 緊急時 訪問看護 加算 リハビリ のみ の利用の場合、算定できるの?
A. 原則として、リハビリのみの利用(理学療法士、作業療法士、または言語聴覚士による訪問のみ)を行っている場合は、緊急時訪問看護加算の算定は難しいと考えられます。
理学療法士などによる訪問看護は、看護業務の一環としてリハビリテーションを中心に行う場合に、看護職員の代わりに訪問させるという位置づけだからです。したがって、リハビリテーション専門職が所属するステーションであっても、看護師が利用者の状態を評価するために定期的に訪問することが必須となります。
厚生労働省のガイドラインでは、リハビリのみの利用であっても、初回および「少なくとも概ね3ヶ月に1回程度は事業所の看護職員による訪問により、利用者の状態の適切な評価を行うものとする」と示されています。
実際には、利用者の心身の状態把握などのためにも、1ヶ月に1回は看護師による訪問を計画に組み込んでいるステーションが少なくありません。そうした計画のもとでは訪問看護緊急時加算が算定でき、ひいては実際の急変時にも責任を持って対応することにつながります。そのため、看護師と連携した計画的な訪問管理が欠かせません。
Q. 緊急時訪問看護を行った場合はケアプランの変更が必要?
A. はい、必要です。計画外の緊急訪問看護を行った場合は、その訪問の所要時間に応じた所定の単位数を算定するため、居宅サービス計画(ケアプラン)の変更が必要となります。担当のケアマネジャーと速やかに連携をとり、ケアプランの修正を依頼する必要があります。
Q. 緊急時訪問看護だけのサービス利用はできる?
A. いいえ、できません。緊急の対応のみを目的とした契約や算定は認められていません。少なくとも月1回以上の定期的な訪問看護を計画に位置付けたうえで、サービスを利用する必要があります。
Q. 月の1回目の訪問が緊急時訪問でも算定できるの?
A. はい,算定できます。緊急時訪問看護加算は、その月に初めて介護保険の給付対象となる訪問看護を行った日に加算されるため、最初の訪問が訪問看護計画に位置付けられていない緊急時訪問であった場合でも加算可能です。ただし、その月に介護保険の給付対象となる訪問看護を一度も行っていない場合は、加算のみを単独で算定することはできません。
医療保険の24時間対応体制加算
医療保険における「24時間対応体制加算」は、営業時間外の相談や緊急訪問に応じる体制を評価する月額の加算です。令和6年度の改定によって新設された「加算イ・ロ」の区分や、算定に必須となる看護職員の負担軽減策について詳しく解説します。
24時間対応体制加算の要件と料金
医療保険における24時間対応体制加算は、営業時間外であっても電話連絡や必要に応じた緊急訪問を行える体制を評価する加算です。
令和6年度改定により、看護業務の負担軽減への取り組み状況に応じて、「加算イ」と「加算ロ」の2区分に再編されました。
算定料金は以下のとおりです。
- 24時間対応体制加算(イ):6,800円/月
- 24時間対応体制加算(ロ):6,520円/月
算定にあたっての主な要件および留意事項は以下の表のとおりです。
| 算定要件の項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 事前説明と同意 | 訪問看護ステーションの保健師、看護師が利用者に当該体制について説明し、同意を得た場合に月1回に限り加算できる |
| 届出 | 事前に地方厚生(支)局長への届け出が必要であること |
| 留意事項の項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 算定の制限 | 1人の利用者に対し、1カ所の事業所に限り一括して算定する |
| 文書の交付 | 説明にあたっては、名称・所在地・電話番号・時間外および緊急時の連絡方法を記載した文書を交付する |
| 対応内容の記録 | 24時間対応を実施した場合には、その内容を訪問看護記録書に詳しく記録する |
| 担当者の条件 | 連絡相談を担当する者は、原則として、当該訪問看護ステーションの保健師又は看護師とし、勤務体制を明確にする ※ただし、機能強化型訪問看護管理療養費3の届出を行っている場合は、併設する保健医療機関の看護師が営業時間外の電話対応を行っても良いが、緊急訪問は当ステーションの看護師などが行う |
| 複数ステーションの連携 | 特別地域や医療資源の少ない地域に所在するステーションのほか、業務継続計画(BCP)を策定して「地域の相互ネットワーク(※注)」に参画しているステーションも対象。2つのステーションが連携して24時間体制を確保し、届け出た場合に算定可能 |
※注:自然災害などの発生に備えた地域の相互ネットワークの3つの要件
- 都道府県、市区町村または医療関係団体などが主催する事業であること
- 自然災害や感染症などの発生により業務継続が困難な事態を想定して整備された事業であること
- 都道府県などが当該事業の調整などを行う事務局を設置し、当該事業所に参画する訪問看護ステーションなどの連絡先を管理していること
看護職員の負担軽減に資する6項目
加算「イ」(6,800円)を算定するためには、厚生労働省が定める以下の6項目のうち、「1」または「2」を必ず1つ以上含む2項目以上を実践し、届け出ている必要があります。
💡 看護職員の負担軽減に資する6項目(※1または2を必ず1つ以上含む2項目以上)
- 夜間対応した翌日の勤務間隔の確保(勤務間インターバル)
- 夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)まで
- 夜間対応後の暦日の休日確保
- 夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制の工夫
- ICT・AI・IoTなどの活用による業務負担軽減
- 電話などによる連絡・相談を担当する者に対する支援体制の確保
これらの負担軽減策を組み合わせることで、スタッフの健康を守りながら高い評価区分の算定が可能です。
医療保険の緊急訪問看護加算
計画外の緊急の求めに応じて訪問看護を提供した際に算定できる「緊急訪問看護加算」は、日額で評価される加算です。令和6年度改定で導入された、月の算定日数に応じた2段階評価の仕組みや具体的な算定要件を整理しました。
計画外の緊急の求めに応じて、主治医の指示により緊急訪問を行った場合に算定できる加算です。
令和6年度改定により、月の算定日数に応じた2段階評価へと変更されました。
料金は以下のとおりです。
- 月14日目まで:2,650円/日
- 月15日目以降:2,000円/日
※精神科訪問看護における「精神科緊急訪問看護加算」についても同様に、14日目までは2,650円/日、15日目以降は2,000円/日となります。
算定にあたっての主な要件および留意事項は以下の表のとおりです。
| 算定要件の項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 計画外の緊急訪問 | 訪問看護計画に基づき定期的に行う訪問看護以外で、利用者や家族などの緊急の求めに応じて、主治医の指示により指定訪問看護を行った場合に、1日につき1回に限り加算できる |
| 速やかな報告 | 訪問後、速やかに主治医に報告を行うこと |
| 留意事項の項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 算定の制限 | 緊急の指定訪問看護を行った訪問看護ステーションが、24時間対応体制加算を届け出ていない場合、または利用者に対して過去1ヶ月以内に指定訪問看護を実施していない場合は算定できない |
| 主治医側の要件 | 診療所または在宅療養支援病院が24時間往診・訪問看護の対応体制を確保し、連絡先や氏名などをあらかじめ利用者に文書交付している場合に限る |
急変時の速やかな連携と訪問、その後の主治医への報告体制を整えておくことが必要です。
医療保険の緊急訪問看護加算Q&A
医療保険の緊急訪問看護加算や24時間対応体制加算について、複数ステーションを利用する場合や保険の切り替え時期など、実務で迷いやすい具体的なケースをQ&A形式で解説します。
Q. 同じ日に2ヶ所目の訪問看護ステーションが緊急訪問した場合は?
A. 複数の訪問看護ステーションから訪問看護を受けている利用者に対し、いずれかが計画に基づく指定訪問看護を行った同一日にその他の訪問看護ステーションが、緊急の指定訪問看護を行った場合は、緊急訪問看護加算のみを算定できます。
算定のための詳細な要件は以下の表のとおりです。
| 項目 | 詳細な要件内容 |
|---|---|
| 加算の対象者 (複数ステーション利用可の要件) |
厚生労働大臣が定める疾病などの利用者、または特別訪問看護指示書交付対象となった利用者であって、週4日以上の指定訪問看護が計画されている者 |
| 2カ所目のステーション of 施設基準 | ① 24時間対応体制加算を届け出ていること ② 緊急訪問看護加算の算定日前1ヶ月間に、訪問看護を実施していること(訪問看護基本療養費を算定していること) |
Q. 緊急時訪問看護加算(介護保険)と24時間対応体制加算(医療保険)どちらが優先されるの?
A. 月の途中で介護保険から医療保険(あるいはその逆)へ適用保険が変更になった場合、その月の初回の訪問時に適用されていた保険の加算が優先され、その月は一括してその保険の体制加算のみを算定します。
訪問看護の緊急時加算まとめ
訪問看護における緊急時の加算について、介護保険と医療保険の主な違いと重要ポイントは以下のとおりです。
- 介護保険:24時間対応体制を評価する「緊急時訪問看護加算(Ⅰ・Ⅱ)」があり、体制を提供した月に1回算定します。
- 医療保険:24時間対応体制を評価する「24時間対応体制加算(イ・ロ)」に加え、実際の緊急訪問を評価する「緊急訪問看護加算」があります。
- 令和6年度報酬改定のポイント:いずれの保険においても、勤務間インターバルの確保などの「看護職員の業務負担軽減」に取り組んでいるかによって区分(Ⅰ・Ⅱ、イ・ロ)がわかれます。
- 実務上の注意点:月途中に保険が変更になった場合は初回訪問時の保険が適用され、複数ステーションが関わる緊急訪問では要件を満たした2ヶ所目のステーションのみが算定可能です。
24時間対応体制の整備は利用者や家族の安心につながる一方で、スタッフの負担軽減を図る工夫も欠かせません。最新の算定ルールを正しく把握し、健全で持続可能なステーション運営にお役立てください。
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最後まで読んでくださってありがとうございました。





