在宅における褥瘡看護計画の重要性

訪問看護の褥瘡ケアは、看護師が不在の「空白の時間」をどう守るかにかかっています。環境や介護力に制約があるため、病院の標準看護計画が通用しないと感じる場面も少なくありません。管理者は、以下の視点が計画に含まれているか確認しましょう。
- 介護保険枠内での福祉用具選定
- 家族の技術習得度と負担感の把握
- 居室の温湿度や寝具などの環境整備
特に真皮を超える褥瘡(DESIGN-R®2020でd2以上)は、特別管理加算の算定や医療保険への切り替え判断に直結します(出典:厚生労働省『令和6年度診療報酬改定の概要』)。
在宅と病院では管理の優先順位が異なるため、以下の違いを念頭に置く必要があります。
| 比較項目 | 病院看護 | 訪問看護 |
| 資源 | 潤沢な医療材料 | 福祉用具や市販品 |
|---|---|---|
| 主体 | 看護師 | 家族やヘルパー |
| マネジメント | 治癒への直接介入 | 生活の場での継続性維持 |
医療保険への切り替えや加算については、以下の記事で詳しく解説しています。
▶︎【保存版】訪問看護で医療保険が使える条件は?介護保険との違いを徹底解説!
▶︎訪問看護の特別管理加算とは?算定条件やⅠ・Ⅱの違いなどを解説
褥瘡看護計画作成のステップ

スタッフ間で視点を揃えるため、客観的な指標を用いた事実に基づくアセスメントと、現実に即した目標設定を徹底しましょう。
アセスメントによる現状把握
日本褥瘡学会が推奨する「DESIGN-R®2020」を活用するのが確実です。これにより、深さや滲出液の状態を数値化でき、主治医への報告もスムーズになります。
あわせて、褥瘡の発生原因となる以下の在宅特有の要因も分析しましょう。
- 介護力: 老老介護による体位変換の不足や、ポジショニングのズレ
- 低栄養: 高齢家族の知識不足による食事の偏りと、それに伴う組織修復力の低下
- 環境要因: 認知機能低下や寒冷な住環境による、衣類・寝具の重なりと圧迫
「赤くなっている」といった曖昧な表現ではなく、「深さd1、大きさ4cm」と記録することで計画の根拠が明確になります。
参照:日本褥瘡学会『改定DESIGN-R®2020コンセンサスドキュメント』
看護問題と目標設定のポイント
アセスメント後は、在宅での生活を考慮した具体的な目標を立てます。完治だけでなくスモールステップの目標設定が家族の達成感につながります。
- 長期目標:褥瘡の消失、再発防止
- 短期目標:滲出液のコントロール、家族による体位変換の定着
- 緩和的目標:痛みや浸出液による不快感の軽減(終末期など)
「皮膚統合性障害」などの看護診断名を使う場合でも、解決策は具体的にしましょう。例えば「1日3回の体位変換」のように指標を明確化することで、スタッフ間のズレを防ぎ、客観的な評価が可能になります。
項目別褥瘡看護計画の書き方と具体策

訪問看護における処置計画は、利用者の経済状況や家族の負担を考慮した持続可能な内容で立案しましょう。現場の資源を最大限に活かす計画の立て方を解説します。
1. 観察計画(OP):変化の「兆し」を捉える記述
訪問頻度が限られる在宅では、専門的な評価に加え、家族や他職種が日常的にチェックできる「変化のサイン」を計画に盛り込むことが重要です。的確な評価を行うための主な観察項目は以下のとおりです。
- 専門的指標: 創部のサイズ、深さ、滲出液の量・性状(DESIGN-R®2020による定期的評価)
- 感染徴候: 局所の発赤、熱感、悪臭、疼痛の有無
- 全身状態: 発熱、水分・栄養摂取量、おむつ交換時の排泄物付着状況
- 連携情報: ヘルパーや家族との連絡ノートなどで、シーツの汚れや痛みの訴えを共有
2. ケア計画(TP):エビデンスに基づく現実的な処置
在宅では「滅菌(ステリル)」より「清潔(クリーン)」の維持を優先します。コストパフォーマンスの高い資材を組み合わせた計画を立案します。
在宅で優先的に準備すべき基本資材と処置のポイントは以下のとおりです。
- 洗浄計画: 水道水(微温湯)による十分な洗浄。市販のドレッシングボトルなどによる水圧を利用し、汚れを洗い流す手順を確立する
- 基本資材: ポリウレタンフィルム(湿潤環境維持)、非固着性ガーゼ(組織損傷防止)、白色ワセリン(皮膚保護)などを選択
- 医師への提案: 一般的に入手可能な資材を用いた処置法を、具体的に明文化して指示を仰ぐ
エビデンスの視点: 上記ガイドラインでは、創傷洗浄は水道水で差し支えないとされています。湿潤環境を維持できる適切な代用資材の選択が推奨されます。
創部の状態を的確に言語化し、指示の変更をスムーズに依頼するためのコツは、こちらの記事が参考になります。
▶︎医師に聞いた、訪問看護報告書の効果的な書き方|基本ルールから効率化テクニックまで解説!
3. 教育計画(EP):家族の「これならできる」を引き出す
家族の介護力に見合った、以下のようなステップアップ型の指導を計画します。
- 初期: おむつ交換時の「早期発見(赤み・臭い)」をゴールにする
- 習得: 身近な道具を用いた「怖がらずにしっかり洗う」手順の定着
- 応用: バスタオルなどを代用した、生活導線を邪魔しない除圧・体位変換
- 緊急時: 訪問を待たずに連絡すべき具体的な基準(発熱、急激な変色)の共有
症例別そのまま使える看護計画文例集

在宅現場で遭遇する頻度の高い症例に基づき、そのまま転記・アレンジして活用可能な看護計画の文例を提示します。
1. 仙骨部褥瘡と拘縮がある高齢者
仙骨部は圧が集中しやすく、拘縮がある場合は通常の体位変換が困難です。クッションを用いた微細な調整と、排泄物による浸軟(ふやけ)対策が鍵となります。
- 観察計画(OP)
- 仙骨・拘縮部位の皮膚状態(DESIGN-R®2020による評価)
- 排泄状況(軟便・尿失禁)と皮膚の浸軟の有無
- ポジショニングによる除圧効果(骨突出部の浮かし)の確認
- ケア計画(TP)
- 30度側臥位の導入: 体圧分散クッションを活用し、骨突出部を避けた安定的な姿勢を保持する
- 撥水性クリームの活用: 失禁時は速やかに洗浄し、撥水性のあるスキンケア用品でバリア機能を保護する
- 摩擦の軽減: スライディングシート等を用い、移動時の皮膚の「ずれ」を防止する
- 教育計画(EP)
- 家族へクッションを用いた正しいポジショニングを実演・指導する
- 皮膚をこすらずに「押さえ拭き」で清拭する重要性を伝える
2. 脳梗塞片麻痺と低栄養の関連
片麻痺は感覚障害により悪化に気づきにくく、低栄養は組織の修復力を著しく阻害します。多職種と連携し、全身状態の底上げを計画に盛り込みます。
- 観察計画(OP)
- 麻痺側の皮膚状態(自覚症状がないため、目視による確認を徹底)
- 栄養指標(体重推移、血清アルブミン値等)
- 食事摂取量と嚥下状態の観察
- ケア計画(TP)
- 麻痺側の保護: 麻痺側を下にする時間を制限し、良肢位による除圧を徹底する
- 栄養改善の提案: 高タンパク・高エネルギーな補助食品の導入を検討
- 多職種連携: 嚥下機能に合わせた食事形態の調整について、医師やNST(栄養サポートチーム)と共有する
- 教育計画(EP)
- 感覚障害のリスクを説明し、家族による毎日の視診を習慣化してもらう
- 「栄養不足が傷の治りを遅らせる」ことを伝え、摂取しやすい食事の工夫を共に考える
計画修正のタイミングと多職種連携

看護計画は立案して終わりではなく、状況に応じた柔軟な修正が不可欠です。見直しの目安は2週間〜1ヶ月とし、DESIGN-R®2020による客観的な推移に加え、主介護者の交代などの生活環境の変化を評価の指標とします。
状態が悪化した場合は、直ちに医師へ報告し処置指示の再検討を仰ぎます。一方、改善が停滞している場合は、ケアマネジャーとの連携が重要です。体圧分散寝具の再選定(福祉用具)や訪問回数の増調整(サービス調整)など、療養環境そのものを多職種で再構築する視点を持ちましょう。現場の小さな気づきを迅速に共有することが、褥瘡治癒への最短距離です。
難病などで長期にわたり特別な管理が必要なケースでは、制度上のルール(別表7)を正しく把握しておくことが不可欠です。
【褥瘡看護計画作成チェックリスト】
計画書を提出・承認する前に、以下の5項目が満たされているか最終確認しましょう。

まとめ

褥瘡看護計画は、単なる書類作成業務ではありません。訪問看護師、医師、ケアマネジャーなどの多職種、そして利用者・家族のチームが、ケアの方向性を共有するための共通言語です。
根拠に基づいたアセスメントと生活に即した具体的な計画立案こそが、在宅療養者の安全を守り、QOL向上を支える基盤となります。本記事の内容を、利用者が自分らしく過ごすための「生きた計画」作りにぜひ役立ててください。
最後までお読みくださりありがとうございました。





