科学的介護推進体制加算とは?通所・訪問リハでの基本知識

まずは科学的介護推進体制加算の基本的な仕組みと目的を理解しましょう。
算定を検討する前に、なぜこの加算が創設されたのか、どのような取り組みが求められるのかを把握することが重要です。
加算の目的と仕組み
科学的介護推進体制加算は、データに基づいたケアの実践を評価する加算です。
従来の経験や勘に頼ったケアから、客観的なデータを活用したケアへの転換を促進することが目的です。
具体的には以下のサイクルを回すことが求められます。
- Plan(計画):利用者の状態データを収集・分析
- Do(実行):データに基づいたケアプランでサービス提供
- Check(評価):LIFEへデータ提出し、フィードバックを受信
- Action(改善):フィードバックを活用してプランを見直し
このPDCAサイクルを継続することで、より効果的なリハビリテーションが実現できます。
2024年度改定での変更点
2024年度の介護報酬改定では、事業所の負担軽減を目的とした運用見直しが行われました。
最大の変更点は、データ提出頻度の統一です。
- 改定前:加算ごとに異なる複雑な提出タイミング
- 改定後:「少なくとも3か月に1回」に統一
この変更により、管理業務の負担が大幅に軽減されています。
通所・訪問リハビリテーション事業所での科学的介護推進体制加算算定要件と単位数

ここでは、あなたの事業所が実際に算定できるかどうかを判断するための具体的な要件をお伝えします。単位数や必要な手続きを一つずつ確認していきましょう。
対象サービスと算定単位
科学的介護推進体制加算の対象となる主なサービスと単位数は、以下のとおりです。
主な対象サービス種別 | 単位数/月 |
通所リハビリテーション | 40単位 |
訪問リハビリテーション | 40単位 |
通所介護(デイサービス) | 40単位 |
特定施設入居者生活介護 | 40単位 |
小規模多機能型居宅介護 など | 40単位 |
例えば、通所リハ利用者が50名の場合では以下のような収益になります。
- 月間収益は40単位 × 50名 = 2,000単位
- 年間収益は2,000単位 × 12か月 = 24,000単位
特養や老健などの施設サービスは加算区分や単位数が異なります。
科学的介護推進体制加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の違い
加算(Ⅰ)と(Ⅱ)の区分は、主に介護老人福祉施設などの施設サービスが対象です。通所・訪問リハビリテーションは、これまで解説した月40単位の加算に該当します。
参考として、両者の主な違いは単位数やLIFEへの提出頻度にあります。施設サービスでは、より手厚い評価体制を組むことで高い単位数を算定できる仕組みです。
算定のための3つの必須要件
加算を算定するには、主に以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 利用者への説明と同意
個人情報をLIFEへ提出する目的と内容を説明し、書面で同意を取得します。口頭での同意は認められません。また、同意取得日をケアプランに明記する必要があります。 - LIFEへの情報提出
ADL値(日常生活動作の状況)、栄養状態、口腔機能、認知症の状況、リハビリテーションの実施状況などの情報を提出します。 - フィードバックの活用(PDCAの実践)
LIFEからの分析結果を受信し、フィードバック内容を踏まえてケアプランを見直します。継続的なサービス改善の実施が求められます。
💡これらの要件は形式的な対応ではなく、実際にサービスの質向上につながる活動として実施することが求められます。
科学的介護推進体制加算算定開始から運用までの4つのステップ

加算の算定要件を理解したら、次は実際の運用手順です。準備から運用開始まで、スムーズに進めるための具体的なステップを段階的に解説します。
STEP1:事前準備と体制整備
算定開始の2か月前から準備を始めましょう。
【準備項目とスケジュール】
- 事業所内の体制整備: 加算の担当者を決め、全スタッフで業務フローなどを共有
- 利用者への同意取得: 加算の趣旨を説明し、情報提供に関する同意を書面で得る
- LIFEの利用申請: 未利用の場合は、公式サイトから早めに利用申請を済ませる
- 体制等に関する届出: 管轄の行政庁へ、算定を開始したい月の前月15日までに届出書を提出
💡LIFE担当者を1名指名し、業務範囲を明確化します。誰が、いつ、何をするかを文書化した業務フローを作成し、全職員が加算の目的と手順を理解できるようスタッフ研修を実施します。
STEP2:LIFEへの提出情報とデータ形式
通所・訪問リハビリテーションでは、以下の項目を評価・提出します。
【主な提出項目】
- 基本情報:利用者基本情報(年齢、性別、要介護度等)とサービス利用状況を提出
- 身体機能・ADL:Barthel Index(バーセル指数)、移動能力、認知機能を評価
- 栄養・口腔:栄養状態評価と口腔機能評価を実施
- リハビリテーション関連:リハビリテーション実施計画と機能訓練の実施状況を提出
推奨はCSV連携です。入力ミスの削減、業務時間の大幅短縮、データの一元管理が可能になるためです。
STEP3:提出頻度とPDCAサイクルの実践
LIFEへのデータ提出は「少なくとも3か月に1回」と定められています。
重要なのは、提出後のフィードバックを活かしたPDCAサイクルを実践することです。
【効果的なPDCAサイクルの回し方】
Plan(計画):利用者の状態評価を行い、個別リハビリテーション計画を策定
Do(実行):計画に基づいたサービス提供を行い、定期的な状態観察とデータ収集を実施
Check(評価):LIFEへのデータ提出を行い、フィードバック内容の確認・分析を実施
Action(改善):フィードバックを踏まえた計画修正を行い、新たな課題の抽出と対応策を検討
STEP4:ケアプランへの記載方法
ケアプランには加算算定についての同意取得とLIFE活用の具体的な取り組みを記載します。
【記載例】
- 科学的介護推進体制加算の算定について利用者・家族に説明し同意を取得済(同意取得日:令和〇年〇月〇日)
- LIFE(科学的介護情報システム)への情報提出を実施し、 フィードバック情報を活用してリハビリテーション計画の 継続的な見直しを行う
- 3か月ごとにLIFEへの情報提出を実施し、サービスの質向上を図る
科学的介護推進体制加算の運用で管理者が直面する3つの課題と解決策

算定要件や手順を理解しても、実際の運用では様々な壁にぶつかります。多くの事業所が抱える共通の課題と、明日から実践できる具体的な解決策をご紹介します。
課題①:職員の業務負担増への対応
加算算定で最大のハードルが「職員の業務負担増」です。新たな業務が増えることに対し、現場からは不安の声が上がりやすい傾向にあります。
実際に現場からは、次のような声も聞かれます。

「でも実際、業務量は確実に増えるよね…」
「LIFEの入力作業で残業が増えそう」


「現場スタッフからの反発が心配」
このように、漠然とした不安や実質的な業務増が、算定を断念させる大きな要因となっています。
この課題への対策の鍵は「業務プロセスの見える化」と「ICTツールの活用」です。
【業務の「見える化」】
「忙しい」と漠然と捉えず、今回の加算で「誰の」「どの業務が」「どれくらい増えるのか」を具体的に洗い出します。
- 業務の棚卸し: 新たに必要な業務(LIFE入力、計画書修正など)をリストアップ
- 工数の算出: 各業務にかかる時間や手間を予測し、数値化
- 既存業務の見直し: 数値化したデータをもとに、既存業務で効率化できる部分を探す
業務内容と工数を客観的に把握することで、改善すべき点が明確になります。
【ICTツールの活用】
紙やExcelでの運用は、転記ミスや確認作業を増やしがちです。記録からLIFE提出、請求までを一気通貫で管理できる介護ソフトを導入すれば、二重入力の手間が省け、情報共有も円滑になり、業務全体の効率化が図れます。
課題②:LIFE提出忘れのリスク管理
次に深刻なのが、「LIFEへの提出忘れ」による過誤請求のリスクです。定期的なデータ提出を怠ると、加算返戻や不正請求と見なされる可能性があります。
このリスクを防ぐ鍵は、個人の記憶に頼らず「仕組み」で管理することです。誰がやってもミスが起こらない仕組みを作りましょう。
【提出忘れを防ぐ仕組みの例】
- チェックリストの作成: タスクを具体的にリスト化し、完了チェックを徹底
- ダブルチェック体制: 提出担当者と確認者を分け、二人体制で確認
- リマインダーの活用: カレンダーアプリや介護ソフトの機能で、期限前に通知が来るように設定
こうした地道な仕組みづくりが、施設の信頼を守ることに繋がります。
課題③:利用者・家族への説明と同意取得
利用者様やご家族からの同意取得も、管理者が悩みの種です。
以下のポイントをおさえた説明資料を作成するとよいでしょう。
【説明・同意取得のポイント】
- 平易な言葉で伝える
- ×:「LIFEシステムに情報提出します」
- ○:「国のデータベースに情報を提供し、より良いケアを受けられるようにします」
- 具体的なメリットを説明
- 「あなたの状態に最適なリハビリプログラムを提供できます」「全国のデータと比較して、効果的な訓練方法を選択できます」「定期的にプログラムを見直し、継続的に改善していきます」といった内容を伝える
- プライバシー保護への言及
- 情報は厳重に管理され、プライバシーは守られることを伝え、安心感を持ってもらう
介護ソフトで科学的介護推進体制加算をスムーズに

紙やExcelでの管理に限界を感じている方に向けて、根本的な業務改善につながる介護ソフトの活用方法をお伝えします。導入効果から選び方まで、実践的な情報をまとめました。
介護ソフト導入で実現する業務効率化とヒューマンエラー防止
介護ソフトの導入は、加算運用の業務負担を大幅に減らし、ミスを未然に防ぎます。
紙やExcel運用では、記録・LIFE提出・請求がそれぞれ分断され、何度も同じ情報を転記する必要がありました。転記ミスのリスクが高まり、情報共有も遅れがちになります。
LIFE連携に対応した介護ソフトなら、これらの業務が一気通貫になり、以下のようなメリットが生まれます。
- 記録から請求まで自動連携: 日々の記録がLIFE提出用データや請求情報に自動で反映され、面倒な転記作業が不要になる
- ヒューマンエラーの防止: 転記ミスや確認漏れが減り、月末の確認作業にかかる時間も大幅に削減
- 円滑な情報共有: 請求を担当する医事課とも同じシステム上で情報共有できるため、スムーズな連携が可能
人の手で行っていた作業をシステムに任せることで、職員は本来注力すべき利用者様へのケアに集中できるようになるのです。
介護ソフトの選び方
「どの介護ソフトを選べば良いかわからない」という方も多いでしょう。
ソフト選びで失敗しないためには、施設の規模やサービス種別との適合性、操作の簡便さ、サポート体制、そして費用対効果などを多角的に検討することが重要です。
詳しいソフト選びのポイントについては、こちらの記事
≫【今更きけない】LIFE(科学的介護情報システム)とは?管理者向け 業務負担軽減の実践ガイド
で詳しく解説しています。
ソフトの導入を具体的に検討される際は、ぜひあわせてご覧ください。
まとめ

本記事では、科学的介護推進体制加算について、算定要件から現場の課題、そして効率的な運用術までを解説しました。
この加算は、データに基づいたケアの実践を評価するものであり、算定要件や手順を正しく理解することが第一歩となります。現場の業務負担増という課題に対しては、業務プロセスの見直しや介護ソフトの活用が、負担軽減の大きな助けとなるでしょう。
科学的介護推進体制加算への適切な取り組みは、施設の収益安定化のみならず、利用者様へのサービス品質を科学的根拠をもって向上させる絶好の機会です。この記事が、皆様の施設における加算算定と、より良いケアの実現に向けた一助となれば幸いです。
最後までお読みくださりありがとうございました。