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訪問看護の乳幼児加算を小規模ステーションで活用するための実践ガイド【2024年改定対応】

訪問看護の乳幼児加算を小規模ステーションで活用するための実践ガイド【2024年改定対応】

公開:

2025年11月24日

更新:

2025年12月23日

「地域のために小児も受け入れたいけれど、少人数で対応しきれるだろうか」
地域からのニーズを感じつつも、24時間体制の維持や加算算定の複雑さに、一歩踏み出せない管理者の方も多いでしょう。特に小規模ステーションでは、スタッフへの負担増やリスク管理が大きな壁になりがちです。

この記事では、乳幼児加算の基礎知識に加え、限られた人員で無理なく算定するための体制づくりのポイントを解します。

スタッフを守りながら、ケアの質と経営安定を両立させるヒントが見つかります。ぜひ今後の運営にお役立てください。

目次

訪問看護における乳幼児加算とは?


訪問看護における乳幼児加算とは、6歳未満の利用者へ訪問看護を行った際に算定できる加算です。小児特有の専門性を評価するもので、令和6年度改定により区分が細分化されました。

制度の基本と具体的な対象者について解説します。



在宅療養する子どもを支えるステーションを評価する仕組みです。改定により、従来の一律単価から利用者の状態に応じた2区分へ変更されました。

これは重症児を受け入れる事業所を適正に評価するためです。小規模でも、専門性を発揮して重症児に対応すれば、より手厚い報酬が得られます。



対象は6歳未満(6歳の誕生日の前日まで)の利用者です。

区分と加算額は以下のとおりです。

区分加算額(1日につき)対象者
通常1,300円6歳未満の利用者(下記以外)
重症児等1,800円別に厚生労働大臣が定める者


特に1,800円の対象となる「別に厚生労働大臣が定める者」とは、具体的に以下のいずれかに該当する利用者です。

  • 超重症児または準超重症児(超重症児・準超重症児の判定スコアによる)
  • 指定の疾病等の者(特掲診療料の施設基準等別表第七に掲げる疾病等)
  • 指定の状態の者(特掲診療料の施設基準等別表第八に掲げる者)


難病や重度の障害によってこれらに該当するか、必ず確認しましょう。



算定要件の注意点は以下のとおりです。

  • 算定は1日1回限り
  • 6歳の誕生日の「前日」までが対象
  • 上位区分の根拠確認


1日に複数回訪問しても加算は1回のみです。また、年齢計算に関する法律により、誕生日の前日までが6歳未満として扱われます。誕生日当日から算定不可となるため、スケジュール管理を徹底しましょう。

上位区分(1,800円)の要件である「超重症児・準超重症児」の判定は、原則として医師の指示書への明記が必要です。ただし、看護師が判定スコア等で評価し、主治医に報告・確認する形でも認められます。必ず根拠を記録し、レセプト摘要欄へも明記しましょう。

(参考:厚生労働省『令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)p.34』、厚生労働省『疑義解釈資料の送付について(その2)』問41)


小規模ステーションが乳幼児加算を取りにくい理由


「地域のために小児も受け入れたい」と思いつつ、人員体制の制約で踏み出せない管理者は少なくありません。手技の難易度以上に、少人数ゆえの構造的な課題が壁となるからです。

主な3つの理由を解説します。



成人とは異なる以下のような高度な専門性が求められます。小児は症状進行が早く、急変リスクが高いためです。

  • 言葉で不調を訴えられない
  • 症状進行が早く、急変リスクが高い
  • 成長発達に合わせた関わり


教育リソースが限られる中、経験の浅いスタッフも含めて全員のスキルをこの水準まで引き上げることは、小規模事業所にとって大きなハードルとなります。



少人数でのオンコール体制維持が困難になりがちです。小児は夜間の発熱や痙攣(けいれん)など突発的な変化が多く、保護者からの連絡頻度も高いためです。

小児対応できるスタッフが限られると、特定の職員に待機負担が集中します。代わりがおらず常に緊張を強いられる環境は、スタッフの疲弊や離職リスクに直結するため、経営者として慎重にならざるを得ません。



患児だけでなく、保護者への精神的ケアが欠かせません。わが子の不調に敏感な保護者に対し、些細な対応のズレが信頼喪失やトラブルに発展しやすいからです。さらに、きょうだい児も含めた家族ケアが求められます。

スタッフを守りつつ親子を支えるには、高度な対話力と、組織としてのリスク管理体制が必要です。

それでも乳幼児加算に取り組むメリット


手間や時間はかかりますが、取り組むことは小規模ステーションの生存戦略になります。件数を追う薄利多売ではなく、地域での「役割」と「質」で勝負できるからです。

3つのメリットを解説します。



「効率」ではなく「単価」で売上を確保できます。ケアに時間を要するため回転率は下がりますが、物理的に件数を増やせない小規模にとって、1訪問あたりの単価アップは重要です。

「乳幼児加算(最大1,800円)+特別管理加算」などを確実に算定できれば、少ない訪問回数でも収益基盤を作れます。「丁寧な看護」と「経営」を両立させる現実的な手段です。



競合との差別化と紹介開拓につながります。小児の受け入れ先は常に不足しており、病院は退院先に困っているからです。「小児も相談可」とすることで、相談員からの認知度は上がります。そこで得た信頼が、結果として成人の新規依頼も呼び込むため、営業活動全体が円滑になります。



ステーションの信頼性が高まります。「小児も看れる」実績は、高い技術と対応力の証明になるからです。他社との差別化になるほか、「幅広いケアを学びたい」という意欲ある看護師の採用にも有利に働き、組織力を底上げします。

▼あわせて読みたい
小規模ステーションが小児分野で勝ち抜くための具体的な戦略については、以下の記事で詳しく解説しています。
『小児訪問看護で勝ち抜く!小規模ステーションの成長戦略と収益化の全手順』


小規模ステーションが乳幼児加算を算定するための実践ステップ


完璧を目指さず、現状のリソースで「できること」から始めましょう。

無理なく算定へ踏み出す手順を、4つのステップで解説します。



まずは「受け入れ基準」を策定し、安全を守れるラインを引くことです。全症例への対応はリスクが高すぎます。例えば以下のように基準を明確にし、相談員へ提示してください。

  • 人工呼吸器は不可だが経管栄養は可
  • 夜間対応は条件付き


ミスマッチを防ぎ、ステーションと利用者を守る信頼構築の第一歩となります。



全員がスペシャリストになる必要はありませんが、現場の不安を取り除く「標準化」は欠かせません。


未経験者には外部研修やeラーニングを推奨しつつ、経験者への同行訪問(OJT)を徹底しましょう。

「乳幼児特有の観察点」や「親との距離感」を現場で学ぶことが、リスク管理能力の向上につながります。座学と実地経験のセットが、スタッフの自信を育てます。


訪問後の「振り返り」を業務に組み込みます。小児ケアは正解が見えにくく、スタッフが悩みを抱えがちです。

「今日の対応でよかったか」をチームで共有し、不安を解消する場を作ります。個人の悩みを組織のナレッジに変える仕組みが、チーム全体の底上げと定着率向上に寄与します。



人数が少ないからこそ、特定のスタッフに頼りきらない体制が必要です。


担当を固定せず、主・副担当制でローテーションを組みます。常時複数名が関わることで、子供の変化に気づきやすく、急な休みや夜間対応も補完可能です。特定スタッフへの負担集中を避けることが、離職防止と安定稼働の鍵です。


小児は保育園や通院、きょうだい児のイベントなどで予定変更が頻繁です。スマホで予定と記録を一元管理できるシステムなら、連絡ミスや請求漏れを自動で防げます。事務負担を減らし、本来のケアに集中する環境を作りましょう。



自社だけで完結せず、地域リソースを頼ります。病院の退院調整看護師や、小児専門ステーションと連携体制を築きましょう。困難事例は相談や分担も可能です。「地域全体で育てる」視点が、小規模事業所のリスク分散と、地域包括ケアへの貢献につながります。

乳幼児加算に関するよくある質問


判断に迷いやすい点をまとめました。正確な知識で請求ミスや返戻を防ぎましょう。



「1日1回」であれば、月の回数に上限はありません。ただし、医療保険の訪問看護自体の回数制限(原則週3日)には準じます。

別表第7・8や特別指示書などで週4日以上の訪問が認められる場合、その都度算定可能です。訪問回数に応じて加算も増えるため、重症児対応は収益確保につながります。



可能です。「夜間・早朝加算」や「深夜加算」と併算定できます。

乳幼児加算は年齢に対する評価であり、時間帯加算とは性質が異なるためです。緊急訪問時も、要件を満たせば両方の加算を請求できるので、漏れなく計上しましょう。



よくあるミスは「6歳の誕生日」です。法律上、誕生日の「前日」に6歳となるため、当日分からは算定不可です。

また、上位区分(1,800円)算定時は、レセプト摘要欄への疾病名や状態記載が必須です。記載漏れは返戻対象となるため、請求ソフトのチェック機能を活用して確認しましょう。

小規模ステーションの成功事例


実際にスタッフ4名体制で乳幼児加算を継続算定した事例を紹介します。

地方都市にある「A訪問看護ステーション」。

  • 規模:看護師4名、事務1名
  • 利用者:約50名
  • 課題:アナログ管理によるミスへの不安、夜間対応の属人化


当初は小児受け入れに消極的でしたが、ITツール導入で情報共有を効率化。患児の変化をリアルタイムで共有し、連絡ミスを解消しました。また「主担当・副担当制」で緊急対応をローテーション化し、特定スタッフへの負担集中を防ぎました。

この体制で重症児受け入れを開始した結果、保護者から「全員が子供を理解していて安心」と信頼を獲得。評判が相談員に広がり、小児だけでなく成人の新規依頼も増加、経営安定化を実現しています。



※本事例は、実際の現場運営モデルを基にした架空のケースです。

まとめ


乳幼児加算の算定には要件の複雑さや体制維持の課題が伴いますが、正しく運用することで、小規模ステーションの経営安定化と信頼獲得につながります。

特に、日々の記録やスケジュール管理におけるミスは、返戻やリスクに直結するため注意が必要です。ICTツールを活用して事務負担を減らし、チーム全体で情報を共有する仕組みを整えることが、安全な算定のカギとなります。

無理に受け入れを拡大するのではなく、まずは今の体制で確実な運用ができるよう、業務フローの見直しから始めてみてください。

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